「俺、キラさんのこと好きです」

幼い告白は突然で、凪いだ風邪が亜麻色の髪を揺らすから、キラの表情はよく見えなかった。
目を見開いて驚いたのは自分だけで、キラはいつものように微笑んでいるんだろうなとアスランはぼんやりと思う。

「うん、僕も」

そう答えたキラからは、やはり微笑がうかんでいた。





アスランとキラが暮らす家は、波の音に包まれていた。
情勢がもう少し落ち着くまで、とカガリが用意してくれたその家は小さなものだったけれど、キラと二人きりで住むには十分だった。
穏やかな時間を、それがごく僅かなものであっても、キラと過ごすことができれば嬉しい。
月にいたあの頃は、当たり前のように享受していたのに、今ではこの平凡な時間 が何よりも尊かった。

外に出た疲れからだろうか、帰ってすぐにベッドに横たわったキラの髪を優しく梳きながらアスランは問い掛ける。

「ねえ、キラ」
「……ん?」
「さっきの本気?」

アスランが腰をかけるとベッドのスプリングがぎしりと軋み、それを合図とするかのようにキラは仰向けに寝返りをうった。

「さっきの?」

紫の瞳を瞬かせるのは、とぼけているからなのか、それとも本当に忘れているからなのか。

「シンの言ったこと」
「あぁ、僕を好きって」
「それに対するお前の返事」

キラの流されやすい性格はよく知っている。

頼まれたら、断れないことを。
求めれば、受け入れてくれることも。

「あまりシンに期待をもたせるな」

俺がいるんだから、なんて言葉は流石に出さなかったけれど、それはアスランの本音だった。
なのにキラはきょとんとした瞳でアスランを見つめている。

「期待?」
「お前もシンが好きだっていうことだ。もう言ってしまった分は忘れてくれることを願うしかないが……シンが勘違いしたら後々困るし、それに可哀相だろう? 」

キラはまだ何か腑に落ちないようで、眉を寄せて唸っている。

「勘違い……」
「だからキラ……」

アスランは溜め息をついた。

キラは何を疑問に思っているのだろうか。 アスランはキラを愛していて、キラもそう思ってくれているのだから、それだけの話ではないか。
シンを好きだという感情が入り込むのはおかしい。
けれどキラは首を傾げた。

「僕もシンが好きなのに、なんで勘違いになるの?」

一瞬、耳を疑った。

「は…?キラ……お前…」
「だから!ボクもシン君が好きだってば」

あまりの衝撃に身体が強張った。
鈍器で頭を殴られたみたいだ。
背中がひやりとしたから、冷や汗をかいてしまったのかもしれない。
それくらい、目の前の恋人の言っていることが理解できない。

「え……キラ……シンを好きって……」
「好きだってば!アスランおもいー!」

気がつけばキラの身体に覆いかぶさっていて、キラは苦しさで暴れていた。

「キラ……じゃあ俺は…どうなるんだ!」
「好きだよ!なんかアスラン変!」

思わず声を荒げてしまったアスランは、キラの返事に顔をしかめた。

「……ラクスは好きか?」
「好きだよ?」
「……カガリは?」
「好きにきまってるじゃない」
「……ルナマリアとメイリンは?」
「ルナちゃんとメイリンちゃん?好きだよ?」
「……」

そういうことか。 キラの博愛主義は今に始まったことじゃない。
感情の細かい種類を考えずにそう言っていたのだろう。

なら、ずっとタチが悪い。

「……次にシンと会う時に、好きじゃないと言うんだ」
「何で。ボク、シン君のこと好きだもん」
「ッ……お前とシンじゃ中身の感情が違うんだ!」

シンのキラに対する感情は恐らくアスランがキラに抱いているものと同じだ。
キラは皆に平等に与えるまなざしをシンにも与えただけ。
それに気付いたとき、シンが傷つくのは目に見えている。
それなのに、横にいる小悪魔はコロコロと笑っていた。

「何がおかしい」
「だってアスラン顔赤いんだもん」
「……お前な……」

アスランはキラの首筋に唇を這わせる。

「ちょっとアスランッ!くすぐったい!」
「真剣に話してるときに笑った罰」
「ちょっ……ベッド壊れる!」
「そんな安物じゃないだろ」

顔をあげたアスランの曇りのない視線に、キラの頬が微かに染まる。

「キラ、愛してる」
「な、なに言ってるんだよ、もう!」
「キラは?」

キラは困ったように視線を彷徨わせたあと、ボクも、と小さく小さく呟いた。















「なんでベルトに鍵がかかってるんだ」
「これ?ラクスがトイレとかお風呂以外外しちゃダメって……」
「……鍵は」
「あるけどアスランには渡しちゃダメだって……」
「………」





穏やかな浜辺にぽつりと灯がともる場所で、きこえるのは甘い囁きか。
それとも、本当に軋んだベッドの崩壊音か。

ともあれ、ふたりきりのこの場所で、穏やかな夜はふけていくのであった。








うわぁ!いつもに増してナゾ!
バッドエンドかうやむやエンドにするはずだったのにアスキラの魔力に勝てんかった(笑)