遠い遠い昔の話をひとつしようか
まだ何も知らなくて
けれど全て知っていた
矛盾の時間の話を
禁断の愛
「アスラン……寒くない?」
腕の中におさまって、尚余るほどほっそりとした身体の恋人は、
そう尋ねながらアスランに擦り寄った。
「平気。キラこそ寒いだろ?」
外は一面の銀世界で、確認するまでもなく反射して部屋に入ってくる光で理解できた。
子猫のように身じろぎするキラからは白い息が漏れて、アスランの胸板にかかった。
「寒くないよ……アスランが……あったかいから」
照れ臭そうに告げるキラは愛らしくて、アスランは思いのままキラを強く抱きしめた。
「アスッ……苦しいよ……」
「あったかいだろ?」
何も身に纏っていないキラの体温が直に伝わって、じんと熱くなる。
折れそうなほど儚いキラを、どうして自分は奪ってしまえないのだろう。
この窮屈な鳥籠から、解き放ってあげられないのだろう。
自分にはその力があるはずなのに。
「アス……ラン?」
急に黙りこんだアスランを、キラの菫が心配そうに窺う。
アスランの焦がれる思いを、キラは敏感に感じとったはずだ。
「キラ……」
「アスッ……ん……」
焦りを紡がれる前に、アスランはキラの唇を塞いだ。
抵抗は、されない。
のしかかった身体の重みも、苦しさも、苛立ちも、キラはこの細い身体で受け止めてくれる。
愛しているのに
愛しているのに
愛しているのに
言い訳にしかならない言葉も、キラはいつだって微笑みで抱きとめてくれる。
絡めた舌から漏れるキラの吐息も、声も、涙も、全て自分のものにしてしまいたかった。
「キ……ラ……」
ただ貪るように、アスランはキラを求めた。
キラもそれに応えて、昨夜睦みあったままの身体はアスランをすぐに受け入れた。
「キラ……キラッ……」
この瞬間だけ、キラが自分だけのものになる気がして。
何度も何度も、キラが壊れるくらいにかき抱いた。
「キラ……愛してる」
「ぼく……も……」
「ほんとに?」
「ぼくも……アスランを……愛してるよ」
頬を伝った涙がとても綺麗で、アスランはそれを静かに舐め取った。
嘘をつく大人のように、キラは汚れていなかった。
そして真実を隠せるほど、大人ではなかった。
良い意味でも、悪い意味でも。
疲れ果てて、再びアスランの腕の中にもたれていたキラだったけれど、外の様子に気がつくなり、
身を起こしてアスランを揺さぶった。
「アスラン!外、すごく綺麗だよ!」
白銀を指差して、キラが笑う。
「知ってたよ」
「え!じゃあ何で教えてくれなかったの!」
「キラのが綺麗だったから」
真顔で答えると、キラは頬を赤く染めた。
こんなキラが、とても好きだった。
あの頃キラはまだあたたかくて。
偽りなんて心の片隅にもなくて。
ただ愛してると言うことしか知らなかった、昔の話。