暗いソラに、真っ赤な光が散って、

僕はそれが、

綺麗だな、なんて、

思ってしまったんだ








僕と、ナイフ








あまりの暑さに、キラは寝返りを打つ。
家にいるときとはまったく違う、かたくて居心地の悪い寝床に、目を閉じながらもキラはしかめ面をした。

(まだ・・・・・・起きなくてもいいのかな・・・・・・)

キラを戦場に駆り立てる不快な音は一切ない。
ミリアリアとフレイの女の子らしい高い声も、何もしなかった。

(フレイ・・・・・・)

そうだ、フレイがいない、とキラは重かった瞼をあげた。
温もりを手探りしても、冷たいシーツの上を這うだけだ。
頭が痛い。
ひとりごとをしながら、キラは上体を持ち上げた。

ここは、どこだ。

アークエンジェルではなかった。
無機質な空間であることは同じだったけれど、こんな個室は知らない。
そして自分が身に着けていた、汗で濡れたインナーも見覚えがない。

(な・・・・・・・に・・・・・・)

何が起こったんだ、と探ろうとしても、頭痛が増すだけだ。
目の前の暗闇に、紅い華が舞って、それがとても綺麗だと思った。
綺麗だから、たたかわなくちゃ。
もっと綺麗なものが、その先に見えるから。
焦燥感に駆られ、キラはかけてあったブランケットを乱暴にはいだ。
そのまま駆け出す。
そして、何かにぶつかった。

「い・・・たい・・・」
「それは俺のセリフだよ、キラ」
「?」

見上げれば、懐かしい眼差しがあった。
自分の頭より高い場所にある翡翠色の目は、穏やかだ。

「アス・・・ラン・・・」
「まだ寝ていなきゃ駄目じゃないか。顔色悪いぞ?」
「ど・・・して・・・こんなところに・・・」

キラの問いかけに、アスランは首を傾げた。

「どうして、って・・・」
「君は・・・ザフト・・・」
「そうだよ」
「じゃあココは」
「ザフト所属の艦だ」

キラは大きな瞳を瞬かせた。
そんなところに、どうして自分はいるのだと、身体に汗が滲んだ。
濡れた場所から、どんどん冷えて行く。
それが、頭のてっぺんまでたどりついたとき、キラの身体は後ろ向きに倒れた。
貧血ではない。
アスランが、キラを倒したのだ。
ぶつけた背中がじんじんと痛くて、圧し掛かられた体は重い。
アスランはこんな乱暴なことをする奴だったっけ、とキラはぼんやりと考えた。

「僕、捕まったの」
「そうだ」
「君に?」
「ああ」

伸ばした指先で、アスランの喉に布越しに触れると、彼の身体はわずかに震える。

「アークエンジェルは」

アスランのまっすぐな瞳で、真実は聞かずにも理解できた。

「お前は、戦ってはいけない」
「どうして」
「戦う勇気もないくせに」
「そんなこと・・・ない!」

強い力でアスランの胸を押しても、彼はびくともしなかった。
優しく触れた瞬間には、とてももろくなるくせに。

「弱いくせに。戦争には不向きだ」
「君だって・・・」
「お前よりはマシだ」
「なんでだよ!」






僕は、




散って逝く紅い華が、




綺麗だと思える人間なのに





それを大声で、わめきちらした。
アスランはそんな自分を軽蔑するだろう。
それでも、事実だから、もうどうでもよかった。


なのに。


「それで?」
「それでって・・・・・・」
「やっぱり向いてないよ、お前には」
「なっ・・・」
「嘘つき」

言い返そうとして、首筋にヒヤリとしたものがあたった。

ナイフだ。

視覚におさめることなく、理解できた。

「キラ」

ナイフを動かされることなく、ささやかれる。






「これで、俺を殺せる?」






静寂が、キラを責めた。
撃つ気のない銃口を向けるのは簡単だったのに。
宛がわれた、小さな金属の塊に、キラは息をのんだ。

「何・・・いって・・・」
「俺は、出来るよ」

アスランは、キラの手を掴むと、ナイフの柄を握らせた。
触らないで欲しいと思った。
指先の冷たさも、跳ねる鼓動にも、きっと気付かれてしまうから。
アスランは、ナイフの切っ先を、キラの手ごと自分の喉に添えた。

「これをひいたら、俺は死ぬよ」
「・・・・・・」

震えがとまらない。

「できない?」

ただ、意味もなく首を左右に振ることしかできなかった。

「キラ」

はっきりとした音で、名前を呼ばれても、身体は震えを増すだけだ。

「もう一度言うけど、俺には、出来るんだ」

アスランは、再びキラの喉に、冷たいものをあてがった。

「例えば今の俺の場合、とても簡単なんだ」
「アス・・・」
「一緒に生きるか、一緒に死ぬかだから」


アスランの微笑みは、あの頃と、何も変わらなかった。


















俺達の場合、とても簡単なんだ













一緒に生きるか、


















一緒に死ぬか