「こんなトコロに……何がいるっていうんだ」

うっそうと、とまではいかないけれど、人々が暮らす都市よりま遥かに緑の多い 「ヤマト」の国に降り立ったアスランはポツリと呟いた。
パイロットスーツを身に纏うことすら面倒がって、紅の軍服のまま愛機ジャステ ィスに乗ってやってきてしまったけれど、
記録が示すように人間の生活している 気配は一切ない。
ヤマトの国へは、一般兵が年に一度ほど調査に入るくらいで、資源などの観点か ら見ても大した場所ではない。
それならば、何故紅を纏うことを許されたアスランがわざわざ派遣されたのであ ろうか。







オニがでる





アスランの疑問に、父パトリックは真面目な顔でそう答えた。
そんなことあるはずないでしょう、といいかけて父のいつになく真剣な表情アス ランは気圧された。
後ろに控えていたイザークとディアッカの笑いを堪える音が気に障り、調査を命じた父 に軽く目眩すら覚えた。
断ろうと思ったが、相手はパトリック・ザラ。
父ではあるが、その前に国防委員長である。
軍の最高司令官に、アスランが逆らえるはずがない。
渋々頷いたアスランに、パトリックが一瞬見せたあの笑顔はなんだったのだろう かと不気味になったが、
そういえば父はオカルトが苦手だったなと一人溜め息を つく。
ヤマトの国に行かなければいいじゃないかという進言も、パトリックには通じな さそうだった。





というわけでアスランがやってきたヤマトの国だったが、前回の調査で「オニ」 が目撃されたらしい。
そんなことを、どんなカオをして上層部に報告したのだか分からないが、正体く らい突き止めてこい!というのがアスランの本音だった。
少し油断すれば「このコシヌケ!」と例の同僚のように口走ってしまうのは確実 だった。
辺りを見回しても樹や草しかなく、所々それらがはげて茶色い土が顔をだすばか りだ。

「どこにオニがいるって?」

非科学的なことは一切信じないタチのアスランである。
まだ調査も何もしていないが、あるはずもないその存在の報告をして、自分の貴 重な時間を割かせた兵士達に怒りの鉄槌をくだしてやりたかった。





が、数秒後。 アスランは目の前に現れたモノに一人コクリと頷いた。




「オニだな」
















「え……あ……人間……さん?」

草むらから顔をだして、カナリアのように愛らしい声で問い掛けられて、アスラ ンはコクリと頷いた。
「オニ」といえば、赤かったり青かったり、牙をむき出して人を脅かすような生 命(?)体。
だが今アスランの視界に映る「オニ」は、そんな伝承とは遠くかけ離れていた。
なのに「オニ」と判断する理由のひとつは、輝く亜麻色の髪の間からちょこん覗 く小さなツノだった。

「君は……オニ……?」

オニもアスランの声に慌てて頷いた。
その仕草の愛らしさにアスランはゴクリと息をのむ。
泣きそうな菫色の瞳が弱々しくこちらの様子を伺っているのがわかって、アスラ ンは安心させるように優しく微笑む。
すると、その愛くるしい容貌のオニは恐る恐る背丈ほどの草むらから姿を晒した 。

「……」

まさしく、オニだった。
身体だけ青いとか、筋肉質だとか、そういうわけではない。
すらりとした白い肢体は美しかったし、さらしが巻いてあったが、胸元には人間 の女性と同じように二つの丸みがある。
問題はその下。
オニが履いていたのは記伝通り、「虎模様のパンツ」だった。

「あのっ……何かご用でしょうか?」

透き通る声にハッと視線を戻すと、オニは首を傾げ上目遣いでアスランを見つめ ていた。

「用っていうか……」

君のことを調査しにきたんだ。

そんな事実をこの愛らしさ生命体に言えるものか。
オニな存在を馬鹿らしいと思ってこの地にやってきたアスランだから、見つけた らどうこうしようなど考えていなかったけれど、
こうやって出会ってしまった以 上必然的にこの驚異の存在を捕獲せざるをえない。
しかし凶暴な生物ならいざ知らず、この目の前のオニは少し触れただけで壊れて しまいそうな儚さを醸し出していたから、
危害など加えたくはなかった。

「君はここに住んでいるのか?」

それとなく尋ねれば、オニはおどおどと、そして確かに頷いた。

「ほかに……誰か住んでるのは…」

その言葉にオニは少しだけ哀しそうな顔をして、アスランの方へ一歩歩み寄った 。
そのとき。


「きゃっ」
「あぶないっ!」

生い茂る草に足をとられたのか、オニは前のめりに倒れてきて、アスランは生来 の反射神経でそれを受け止め、そのまま後ろへ倒れこんだ。

「っ……大丈夫?」
「あっ……ありがとうございますっ……あのっ……ボクはひとりですっ!」
「え?」

助けた礼とともに言われたのは、先ほどのアスランの質問への返答だろうか。
その抜けたタイミングにアスランは一瞬戸惑ったが、腕の中の菫色の瞳はあくま で真剣だ。

「えっと……君一人でここに?ずっと?」
「うん」

震える睫毛の下に覗く菫色の瞳が再び切なそうに細められて、アスランの胸がト クンと鳴った。

「みんな……キラを置いていなくなっちゃったの…」
「キラ……?」


詳しい事情は知らないが、この愛らしいキラを置いていくなんて。
自分なら絶対にありえないと、アスランは知らず知らずのうちに拳を握り締めて いた。

「人間さんは……何しにきたの?」
「えっ……」

そらしたはずの質問を再び投げ掛けられ、アスランの背に冷や汗が伝う。
こうしてキラを抱き締めている時間を失いたくなくて、事実を言うのはためらわ れた。
そうして目を泳がせたアスランに、キラが訝しげなまなざしを送った。

「もしかして……ボクをこらしめにきたの?」

急に身体を震わせたキラに、アスランは瞠目した。

「そうなの……?」
「えっ……キラ……?」
「おじいさまが……言ってたとおり……人間はキラみたいなオニのこと、嫌いな の?」

ふるふると身体を揺らして、菫色から透明な滴を零し出したキラ。
どこか恐怖を感じているようなその様子に、違うと叫びたくなる。

気がつけば、その細い身体を強く抱き締めていた。

「嫌いなわけ……ないだろ…」
「あっ……人間さんっ……?」



ああ、これが一目ぼれというやつなのか。

抱き締めたキラの淡い項に唇を這わせながらアスランはぼんやりと思う。

この弱々しい存在を、どうして嫌いになんてなれるのだ。
それどころか、大事に守って、慈しみたい。
そんな想いがアスランの心を満たしていた。
何がキラを独りにさせたかは分からない。 けれど自分と出会えた以上、寂しい想いはさせたくなかった。

「君を……」
「え……」



「君をさらいにきたんだ」




そっと重ねた唇を、キラは何も言わずにうけとめた。







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なんですかこれ!
続きそうな気配ムンムン(笑)