「きらぁ〜!早く起きろよぉ!」

二段ベッドの梯子の上。 上の段のベッドで、むずかるように枕にしがみついて眠る弟キラの顔を覗きこみながら、
カガリは何度も名前を呼んだ。
普段はぐっすりと眠るキラを起こさないように静かに部屋を出て行くのだけれど、
今日は部活も休みだからキラと一緒に学校に行きたくて
一生懸命起こすのだけれど、キラは一向に目覚めない。
現在の時刻、AM8:00。
学校は歩いて行ける距離だけれど、もう起きないと遅刻になってしまう。
カガリは高校に入ってからまだ遅刻を一回もしていなかったけれど、キラはそろ そろ名簿に遅刻印が付きすぎて、
罰掃除を課される頃ではないだろうか。

「きぃーらぁー」

カガリは揺さぶっても尚枕にしがみついて睡眠を貪ろうとするキラに溜め息をついた。

こうなったら奥の手しかないな。

カガリはそう呟くと、幸せそうな顔をしているキラの耳元に顔を近付けた。

「『今日のワンニャン』始まるぞ」

キラは飛び起きた。
ゴンッという派手な音を伴って。

「いたーい!痛い痛い!痛いよぉっ!!!」
「私だって痛い!!!」

泣きそうな声で喚くキラを怒鳴りながら、カガリはすっかり赤く腫れてしまった額を押さえた。

『今日のワンニャン』

キラを起こしに行くと言ったカガリに、母ヴィアが教えてくれた奥の手。

「キラは毎朝全然起きないけど、『今日のワンニャン』って言うと起きるのよ〜。
うん、それはもうロケットみたいに」

未だ少女のように華めいた容貌を持つ母は、そう笑顔で教えてくれた。
流石母さん、すごい威力だ。
『今日のワンニャン』とは毎朝とあるニュース番組の中でやっている
家庭のペットを紹介するといった内容の五分程度のコーナーだ。
それを見たいと思うのは動物が大好きなキラらしいといえばキラらしいのだが、
もう少ゆっくり起きあがれないものか。
母曰く「ロケットみたい」なキラの起き方は半端じゃなく、
勢いよく上がったキラの頭はカガリの頭に、それはもう見事にぶつかった。

「痛い……でもワンニャン見なきゃ……」

頭を押さえながらぶつぶつと呟くキラに、カガリは用意しておいた制服をキラに 渡した。

「ありがと、カガリィ…」
「ホラ、さっさと着替えて顔洗って!あと少しで始まるぞ」
「あっ…うん!」

慌てて着替えを始めたキラ。
当然脱いだパジャマを畳んだり、とかそういったことはしないわけで。
すでに制服を纏い、学校へ行く支度が出来ているカガリはベッドの縁に寄り掛かると、
脱ぎ散らかされたキラのパジャマを手に取って、それらをたたみはじめた 。
カガリと色違いのキラのパジャマはパステルカラーの水色に、
ピンクとか緑とか 様々な色をした水玉が散っている。
カガリのものはパステルイエローが地だけれど、両方女物であるということをキラは知らなかった。

(でも普通、ボタンの位置が制服のときとちがうんだから気付くだろ)

まぁいいや、と簡単にたたむとカガリは梯子から飛び下りる。

「私は先にご飯食べてるからな。急げよ」
「う、うんっ」

焦るキラをそのままに、カガリはパタパタと一階にあるダイニングへと向かうために階段を降りていった。


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