亜麻色の髪が光を弾きながら軽やかな歌声にあわせて揺れる。
ピタリと身体に張り付くレオタードに、太股の付け根が見えるより下にあるスカートは意味をなしているのだろうか、
こちらもまた、フワリと舞っている。
ざわめきと歓声をあげる兵士達に手を振りながら極上の笑みを投げ出す彼女の腕と腕の間には、形をくっきりと強調された胸も揺れていた。




「なにが『ザフトのみなさぁ〜ん』だ」

アスランは、目の前の光景を見つめながら低く呟いた。

慰問コンサートだと？

そんなことは聞いていないし、しかもどうして、よりによってココなんだ。


特設ステージに配置された戦闘であったら確実に標的にされるであろうピンク色のザクの上で華麗に舞う美少女の名前はキラ・ヤマト。
世間からはアスランの婚約者と認識されているプラントきっての人気歌姫だ。
可憐に舞う姿は本当に花が舞っているかのようで、自慢の歌声もカナリアのようだ。
本来ならば、アスランはそんな彼女の（一応）婚約者であるのだから、
多少なりとも誇りに思えばいいのだろうが、そんな気分には全くなれない。
むしろ不愉快だ。
別に彼女のことが嫌いなのだとか、そういうわけではない。
ただ、イライラするのだ。
破壊衝動を伴う苛立ちとでもいえばいいのだろうか、アスランは横にある建物を蹴飛ばしていた。

「ア、アスランさんっ？」

横では、何やらキラについて感想を求めてたらしいルナマリアがすっ頓狂な声をあげた。
普段の温和なアスランの性格から、今の行動を信じられなかったのだろう。
アスランは苦笑しながら「すまない」と告げると、「キラ」に背を向けて歩き出 した。

「えっ、隊長は見ないんですか？キラ様」
「ああ……」

これ以上見ていても、得体の知れない苛立ちが増すだけ。

ただでさえ戦闘で疲れているのだ。

「『慰問コンサート』で疲れたら馬鹿みたいだからな」

ルナマリアはまたも意外そうな顔をしたが、キラの方を一瞥すると、「そうですよね」と言ってアスランについて来た。


ミネルバに戻ると、シンはカップを手に寛いでいた。

「君は行かないのか？」
「キラ様のライブですか？だったら行きませんよ、誰かさんの無謀な作戦のせいで疲れてますからねー」
「シーンー！？」

シンの嫌味な物言いを咎めるようルナマリアが彼の名前を呼ぶ。
ルナマリアに言われるとシュンとなるシンを見ると、まるで彼らの仲のよさが見 せつけられているみたいだった。

「レイも行ってませんよ」
「レイも？」

アスランが聞き返すとシンは珍しく素直に頷いた。

「この艦の若いクルーは結構変わってるんだな」
「キラ様……俺はそういうの疎いんで。あっ、でもヴィーノとかヨウランは行きましたよ」
「そうか」

アスランの婚約者に興味がないと言うのは失礼だと感じたのだろうか、
多少フォローを交えたシンにアスランは軽くほほ笑みかけると、それだけ言って部屋に戻ろうと踵を返そうとした。
と、そんなアスランにシンは首を傾げた。

「隊長は見ないんですか？キラ様」

アスランはピタリと足を止めた。

「君達は同じことを聞くんだな」

思わず音に出して笑みをこぼしたアスランに、シンとルナマリアが顔を見合わせる。

「な、何笑ってるんすか！」
「えっ！？さっきのアタシが言ったことですかぁ！？なら偶然ですよグ・ウ・ゼ ・ン！」

別に深い意味はなかったのだけれど、こういうことには敏感な年頃だ、
二人とも 顔を少しだけ赤くして、ルナマリアはシンの頭を何度も叩いていた。


そんな三人の頭上から突然流れたアナウンスは、ミネルバのエースパイロット達に、
デュランダル議長が直々に対面したいという内容のものだった。



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