「ん……」
腕のなかにある温もりの感触が妙に心地よくて、アスランはうっすらと目を開い
た。
ぼんやりと視界に映る亜麻色の髪を梳くように撫でてやると、小さく声を漏らしながらすり寄ってきた。
長い睫毛が静かな呼吸にあわせて微かに震える。
甘い香りがアスランの嗅覚をくすぐって好奇心を煽るから、指先で桜色の唇をなぞってみる。
キスしたい
触れた唇の柔らかさにアスランがそう思った瞬間、頭のなかが一気にクリアになった。
「なっ……キラ!?」
かけた覚えのないブランケットが体を包んでいて、アスランが慌ててそれを剥ぐと、
ベビーピンクのネグリジェを纏って眠るキラの姿があった。
寝相はあまりよくないのだろうか、裾が腰のあたりまで捲れ上がって、白い下着が顔を出していた。
赤いリボンのマークの横に、「KIRA」と刺繍してあったのが少しだけ気になったけれど、
大急ぎでキラにだけブランケットをかけ直す。
これでひとまず安心だ
……安心とかそういう問題じゃないだろ
どうしてこんな所に、こんな格好で潜り込んでいるのだ。
「アルコール……キツかったか?」
キラの侵入に現役軍人がなかなか気がつかなかったことをワインのせいにして、アスランは舌打ちをした。
アスランが目覚めたことに気付かずにくぅくぅと寝息をたてているキラを一瞥してベッドから降りると
窓に近付いてカーテンを開けた。
窓の外はまだ暗く、星明かりが疎らにあるだけだ。
「何をしにきたんだ?」
安心しきった表情で眠るキラに問い掛けても返事があるわけでもなく、アスラン
はそっと溜め息をついた。
眠っているキラは愛らしく、コーディネイターのなかでもその美貌が群を抜いていることくらい、
女性に対して朴念仁なアスランでもわかる。
だからといって何をしていいわけではない。
キラに魅せられている輩の部屋に入ったのなら喜ばれるのかもしれないが、自分も一緒だと勘違いはしてほしくない。
「ここは男の部屋だぞ?」
婚約者とはいってもキラに特別な感情を示さないアスランにどうしてこんな軽率な行動がとれるのだろうか。
ではキラにとってのアスランが特別だから故の行動?
「いや……俺に限ったわけじゃない」
本当のことを口にしただけなのに、なぜか胸がズキリと痛む。
「追いだすか」
アスランは呟くと、キラの身体をそっと揺さぶった。
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