「ここで少しだけ待っていてくれるか……?」

少し遠慮がちに尋ねたアスランにキラは小さく頷いた。
キラを抱きかかえていたアスランはその華奢な身体を無機質なベッドの上におろした。
本当は愛らしいキラのために、もっと柔らかく
、あたたかい色味のものを用意したかったけれど軍艦のなかにいるから贅沢は言えない。

ここはヴェサリウス艦内。

アスランは、ヤマトの国で不安そうに抱き着いてくるキラを
そのまま自らが所属している艦に連れて来てしまっていた。
アスランに直接調査を命じた父の元にキラを連れていって暴挙に出られてはたまらない。
かといってキラをそのままあの荒れ果てた国に置いてくるのは
彼女に惚れた男として許せなかった。
アスランはとりあえずキラが安全かつ優遇され、
うまくいけば自分のもと(戦場以外)で暮らせるような状態に持ち込むべく
考える時間を得ようとした。
結果としてここに連れてくるのが最善の策だと判断したのだった。
煩いお偉方もいない。
戦友である穏やかなニコルはきっとアスランの味方をしてくれるだろう。
イザークやディアッカにはキラのことを言わなければいいだろう。
仲は決してよくないから、キラのいるアスランの自室に来ることはまずない。
着艦した際、整備兵たちにアスランが抱き抱えていたキラの姿を見られたが、
「 保護した」と言えば赤のアスランの言うことに異議を申したてる者などいない。

残るはクルーゼ。

この艦での最高責任者。
アデス艦長もいるが、彼は問題ではない。
銀白色の仮面で顔を覆ったクルーゼにキラのことを何と言うべきかわからないが、
整備兵に言ったのと同じく非難民ということにしておけばよいだろう。
別に騙すわけではなく。
ただキラが「オニ」であることを黙っているだけだ。


自室に滞在させる理由を考えながら、アスランはそっとキラから離れると、
キラが淋しそうにアスランの袖をひいた。
少し潤んだ瞳に息をのみながら、大丈夫だよ、と声をかける。
きっとアスランがいろいろ考えていたから不安になったのだろう。
どこまでもアスランの心を魅きつけるキラにアスランはフッと微笑んだ。

「何も心配しなくていいから……」

「ほんとにすぐもどってきてくれる?」

どこか舌足らずな様子で話すキラに胸が高鳴る。

「うん。少し報告してくるだけだから」
「ほうこく?キラのこと?」
そう言ったキラがますます儚げな表情をしたから、アスランは慌てて首を横にふった。
人間ではないと退治されてしまうというキラの不安を汲み取って
アスランは宥 めるようにキラの髪をすいてやる。

「キラのことじゃないから心配しなくていい」

その言葉とアスランの掌の心地よさに、キラは目を細めた。

「すぐもどってきてね?」
「ああ」

すぐもどってくるとも!
心拍数の上昇が最大になってアスランは急いで部屋を出た。
早く戻ってキラを安心させなければ。
そう誓うアスランの歩みはいつになく早い。






けれど。





忍び寄る危機に、アスランも、そしてキラもまだ気付くことはできなかった。










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