「う……」
気持ちが悪い。
うっすらと瞳を開いたキラは、真っ先にそんなことを思った。
身体を起こそうとしたけれど、途端に頭に激痛が走る。
「なんで……こんな……」
どうしてこんなに気分が悪いのだと、キラは身体を包む柔らかな感触に再び崩れ落ちる。
今まで寝ていたせいか、頬をのせたシルクがあたたかい。
「ん……?」
いつもと寝心地が違った。
ころりと寝返りを打っても、変な音はしない。
床に落ちることもない。
さらに手を伸ばしてみても、向こうにはまだ絹の海が広がっている。
「……」
そんなことはありえない。
キラのベッドは、自分でいうのもなんだが、おんぼろだ。
こんなに心地のよいものではない。
ここは、どこだ。
ずきずきと痛む頭で必死に記憶を巡らせる。
たくさん飲んだ。
かつてないくらいに、お酒を飲んだ。
その先が思い出せない。
というより、どうしてあんなにお酒を飲んでしまったのかが不思議だった。
何か嫌なことがあったのかなとつぶやきながら、そこでキラは動きをぴたりと止めた。
考えなきゃ、よかった。
きっかけさえあれば、この先を思い出すのは簡単だった。
悪魔のことを忘れようと、飲んだのだ。
そして、悪魔が現れて。
ここまでは冷静でいられた。
問題は、その後。
「……」
キラはゴクリと息をのんだ。
「見ら……れた」
皆に。
フレイに。
絶望がキラを襲った。
ただでさえ痛む頭にを、鈍器でさらに後頭部を叩かれた感じだ。
「なんて……言い訳すれば……」
弁解する前に、何も考えられなくなってしまって、きっと皆誤解しただろう。
公衆の面前で、あんな恐ろしいことをするなんて、あの男はやっぱり最悪だ。
それでも、触れられた唇は気持ちが良くて、同じ男からみても格好良い。
嫌がらせにしては悪質すぎるし、もしフレイがアスランに惚れてしまったらどうしようと、密かにフレイに憧れを抱くキラは不安を感じる。
そのフレイの認識がキラの思っているものと全く違うのを知らないのが、現在のキラのせめてもの救いだった。
「あああ……」
嫌でも明日はやってくる。
とりあえず、今の現状を把握しなければと、キラは思い切って頭をあげた。
「イタっ!」
同時に吐き気もやってくる。
必死にあたりを見回すけれど、あたりを包む高級感は、見覚えのある光景ではなかった。
もしかして
オモチカエリ
恐ろしい言葉が頭をよぎった。
アスランに抱きかかえられたことは、なぜか鮮明に覚えていた。
キラは一度深く息を吸って呼吸を整えると、身体に触れた。
そしてほっと安堵の息をつく。
ちゃんとシャツは着ていた。
どうやら危ないことはされていないらしい。
男相手にそんなことを考えるようになってしまった自分が悲しいけれど、アスランだから仕方がない。
というか、やりかねない。
「一応……」
上は着ていたけれど、下はわからない。
そっと、音もたてないほど静かに、キラはかけられていたブランケットをめくった。
「……」
ちゃんと、下着ははいていた。
けれど、自分の物ではない。
こんなボクサータイプのものなんてキラはつけない。
それによく見れば、着ていたシャツも自分の物とは、サイズからして違う。
「事後……じゃないよね」
この気だるさは、お酒を飲んだからで。
そうだ、と自分を必死に励ます。
けれど不安はよぎるもので、キラは自分を落ち着けるかのようにぽつりぽつりと呟く。
「まさか……」
「ご期待に添えられなくて、悪かった」
「ひぃっ!」
突然背後からかけられた声に、キラは飛び上がった。
なんだか前にもこんなことあったかな、なんてことを思いながらも、キラはそっと振り返る。
「アス……ラン」
「お前、飲みすぎ」
「ごめんなさい……」
思わず謝ってしまう自分が、情けなかった。
「ほら、脚開け」
近づくなりそう言い放ったアスランにキラはぽかんと口を開けた。
「え……?」
「脚を開けと言ったんだが。聞こえなかったか?」
「あ、ごめんなさい」
ブランケットはアスランがはいでくれたから、キラは言われた通りに脚を開く。
と、そこまできてアスランの注文が異常なものだということにいまさら気がついた。
「なに言ってるんですか!」
「だから脚をひらけといったんだ」
閉じようとした足首を掴まれて、そのまま引っ張られる。
「うわぁぁっ!」
太ももに手を這わされて、布越しに柔らかい性器に触れられた。
いきなりの刺激にキラは気持ちが良いというより緊張で身体を強張らせてしまう。
「な、なに考えて……」
「したいんだろ?」
「そんなこと……」
ない、と抗議しようとする前に、ひやりとした空気を下半身に感じて汗が背筋を伝う。
「ぁっ……」
やんわりと大事なところを握られて、びりりとした感覚が身体を走った。
「やだ……ぁ」
「そうか」
口ではそういいながら、アスランはキラの敏感なところを優しく扱く。
上体をゆっくり後ろに倒されて、視界が変わった。
「なんでこんなことっ……」
「気持ちわるいんだろ?」
「は……い……」
「だから気持ちよくさせてやるよ」
そんなことを耳元で囁きながら、アスランは先端に爪をたてた。
「あうっ」
頭に直接響く媚薬のような低音と、直接的な愛撫に何も考えられなくなりそうだ。
それをなんとか防いでくれるのが、悲しいかな、二日酔いの吐き気だった。
「ぅ・・・」
「いいんだろ?」
俺が触ってやってるんだから当たり前だろと言わんばかりな口調に、キラの反抗心がふつふつと湧き上がる。
キラの先端からは、見えないけれど透明な液がこぼれてしまっているようで、くちゅくちゅと音が響いている。
その気恥ずかしさと、せめてもの抵抗だとばかりに、「気持ちよくない」とキラは小さく呟いた。
「……」
アスランの眉が不穏に動いた。
でも嘘は言っていない。
アスランが触れている部分は確かに気持ちがいいけれど、お腹のなかは気持ちよくないどころか気持ちが悪い。
足して二で割ったらそのくらいだから、と自分なりの論理に達したキラは涙の滲む瞳でアスランをにらみつける。
「ふぅん……」
アスランの手がキラの性器から離れた。
少し物足りないなんて破廉恥な考えをしては駄目だ。
男としての誇りの問題だから、本来の意識でキラは胸をなでおろす。
「俺、キラの世話してあげたんだ」
「え……」
「ここ、俺の家」
だからこんなに広いのかと、キラは納得する。
「キラの汗まみれのシャツもスーツも、他のも、変えてやったのは俺だ」
「……」
「キラが今着てるのも俺のものだ」
恩を着せるつもりなのだろうか。
でもキラみたいな貧乏人に、そんなもの着せても何もかえってこない。
アスランの企みはつかめなくて、キラはベッドに背中をつけたままじりじりと後ろに下がりかけた。
それを当然アスランが、微笑みを添えて妨げる。
「あうっ!」
「キラ」
優しい声が、怖い。
機嫌を損ねてしまったようだ。
「介抱代払える?」
「ふぇっ……」
「出来ないなら、身体で払って」
そのままアスランは放置したはずの性器に口付けた。
「あっ!」
脚を閉じるのが一瞬遅くて、キラの小さなものはアスランの口にすっぽりと覆われる。
くびれの部分はかりりと噛まれて、出したくもない高い声がでてしまう。
「ひ……やぁっ」
アスランの頭をぐいと押しても、甘い痺れを手放したくなくて、力がはいらない。
片手で胸元のシャツを皺が出来るほどに握りしめて何とか快感をやり過ごそうとするけれど、なかなか難しい。
熱い舌がキラの雄に絡みつく。
「ふぁ……」
裏筋を舌先でなぞられ、先端の割れ目をきつく吸われる。
「だ……め……」
こんな風に大事な場所を他人に弄られる経験、アスランに会うまでなかったから、達するのは簡単だった。
「でちゃうっ……」
弱弱しくキラが叫ぶのと、吐き出された白濁がアスランの顔を汚すのは同時だった。
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